こんにちは薬剤師の赤羽です。この世界に存在する生命体は全て死を迎えます。これは不思議なことです。なぜ、永遠の命は手に入らないのか?検討してみましょう
昔の説
なぜ、寿命があるのでしょうか?はっきり言ってすごく嫌なことです。死にたくないです。永遠に生きたいです。歴史上の権力者も不老不死の妙薬を求めてその権力を振るいましたが、その夢は叶いませんでした。生命体はなぜ、寿命というシステムを取り入れたのでしょうか?以前は「種のため」だと言われていました(1)。つまり、子孫のために消滅しないと増えすぎて資源を食い潰すからということです。この考えかは「群選択」と言われています。
利己的な遺伝子
最近は上記の考え方は一般的ではありません。「利己的な遺伝子」という考え方が一般的です(2)。この考え方を構成するのは「生命体は遺伝子の乗り物にすぎない」、「遺伝子は自分を増やすことしか考えていない」という2つの単純な要素です。これは単純なだけに非常にわかりやすく、納得がいく考え方です。生命体の振る舞いの動機は全てこの2つの要素に還元されるということです。この説によれば、全ての利他的な行動は結局利己的な動機からきているとされています。母親が子供を可愛がるのも、自分の命を危険に晒して他人を助ける行為も全て「遺伝子を増やすため」という理由に還元されるのです。忠臣蔵のような忠義の物語も結局は「利己的な行動」で、その行動が子孫繁栄に利するというのが「利己的な遺伝子」の考え方です。
最近の説
「利己的な遺伝子」を踏まえて、最新の説について説明します。「遺伝子は自分を増やすことしか考えていない」という重要なルールを守るために、生命体にとっては遺伝子を増やす行動、すなわち生殖が最重要なテーマになります。その際に自分もそのまま生き残れれば良いのですが、そううまくは行きません。なぜなら「他者との競争」があるからです。「生殖」と「生存」は他者との競争の中では両立できないのです。限られた資源の中で他者に勝利するためには「生殖」と「生存」のどちらかに注力するしかありません。それができなかった生命体は生存競争に負けて淘汰されました。具体例を見てみましょう。人間などの大型哺乳類は「生存」に注力しているため寿命が長いですが、子供は少ないです。一方、ネズミなどの小型哺乳類は「生殖」に注力しているため子供は多いですが、寿命が短いです(3、4)。
生命体に寿命がある理由
結論です。生命に寿命があるのは「利己的な遺伝子」のせいです。「遺伝子の乗り物」にすぎない私たちは、「自分を増やす」という遺伝子の目的のもと、限られた資源の中、他者に打ち勝つために、寿命というシステムを搭載しているのです。
参考文献
1)ライフスパン 老いなき世界 p51 デビット・A・シンクレア(東洋経済新報社)
2)利己的な遺伝子 リチャートドーキンス
3)ライフスパン 老いなき世界 p52 デビット・A・シンクレア(東洋経済新報社)
4)科学者たちが語る食欲 デビット・ローベンハイマー、スティーブン・J・シンプソン(サンマーク出版)p133